
Mindful Business
マインドフルビジネス
「マインドフルネス」を漢字で表現すると、「今」(いま)という漢字と「心」(こころ)という漢字を加えた「念」(ねん)という漢字になります。つまり、心の注意力が満たされている状態、心がどこかに拡散していなく、自分のまわりで起きている事象に、すべての事柄に100パーセント集中している状態です。
禅の言葉では「三昧」(さんまい)とも言い換えることができると思います。
これまでの伝統的な仏教などの宗教の中で使われてきた「瞑想」をツールとして切り出し、宗教性を排除したうえで、瞑想を活用することで、今ここに集中し集中力やEQ,対ストレス性などの向上を目指す活動です。現在では、代替医療の現場や教育や経営で使われてきているものです。
マインドフルネスの起源は、禅だとも、原始仏教だとも諸説ありますが、そのオリジンはテーラワーダ仏教におけるサティ(気づき)がベースになっていると説もあります。しかし、正確なところはわかりません。
日本禅のアメリカへの布教の歴史を紐解けば、1893年にシカゴで開催された万国宗教会議において、日本の臨済宗の釈宗演老師がはじめて英語で講演を行いました。その後、釈宗演の弟子鈴木大拙は、1949年から1958年までの二度、アメリカを中心に長期滞在し、西洋社会に禅を広めました。そして、もう一人の弟子である千崎如幻は、1922年からサンフランシスコで「浮遊禅堂」(floating Zendo)をはじめ、日系人とアメリカ人に禅を指導し、日本文化などについて講義を行ったということです。その後太平洋戦争中に突入し、日本仏教の米国での活動は一時弱まります。
戦後、1950年〜60年代に、米国カルフォルニアで、曹洞宗を中心とした幾つかの禅道場ができたことをきっかけに、その後多くのアメリカ人が参禅をおこないました。影響を受けたアメリカ人とカウンターカルチャーなどが結びついた一部の神秘主義のブームが起きました。参禅したアメリカ人の中にはスティーブ・ジョブズ氏も含まれていたということです。
このムーブメントの後、70年〜80年代にかけて次第にカルフォルニアから発信して米国の中に、禅が溶け込んでいきました。その後2000年代に入るとシリコンバレーのITベンチャーの経営者、従業員などが瞑想を行い、ストレスの低減、集中力向上、組織内での人間関係の円滑化などに効果があるということが経験的にわかってきたのです。
最近では、脳波を測定することで、瞑想の集中力強化・ストレスの低減などの効果が科学的に証明されつつあり、米国のマサチューセッツ大学医学部では瞑想の医学的なアプローチからの研究論文が多数出版されていたり、スタンフォード大学ではマインドフルネスの正式な授業があるほどです。
マインドフルネスは当初、GoogleやFacebookまたLinkedinなどのベンチャーでの導入が多かったようですが、現在では、IT業界では老舗のインテル社なども全世界の10万人の社員に対して社員教育の中で瞑想をワークショップの中にとりいれた研修プログラムを導入しています。
マインドフル・ビジネス

欧米では5年ほど前から、このマインドフルネスな状態を一般人や企業に提供することをビジネスにする、トランスフォーマティブ(意識変容)サービスやマインドフル関連ビジネスが立ち上がってきています。日本でも今後、このマインドフルな状態を提供するビジネスがたちあがって行くであろうとおもわれます。
このマインドフル・ビジネスに関する記事がLife Hakerの日本語版で報道されています。
Life Hacker 日本語版記事
『米国で熱く模索される「マインドフルネス・ビジネス」の可能性。有名企業への導入や科学研究も進む』
マインドフル・ビジネスの定義を試みる
これまでは、マインドフル・ビジネスとは、一般人や企業向けの研修などいわいる「教育」のカテゴリーのみと考えられてきましたが、あえて新たな切り口でマインドフル・ビジネスの定義をしなおしてみようと思います。


当社の定義ですが、「マインドフル・ビジネスの定義」を「心の能力向上を目的としたビジネス」と定義してみたいと思います。
人の心の向上の要素として、チームで仕事をするために必要不可欠な他人を思いやる心である「慈愛心」・また家庭成生活だけではなく、仕事にも必要な、今目の前にあることをこなす「集中力」の向上、肉体の感覚から最適な決断を行う「決断力」、現代社会で必要とされているストレスに対する回復力の向上、そして多くの企業で最も必要とされている、イノベーションのために必要な「創造性(力)」の向上の5つとなります。
これまでは、マインドフル・ビジネスとは企業向け研修や、個人向けのカウンセリング、または代替医療などの一部の領域に限定されていました。しかしながら、各業界のなかにこの数年で「マインドフル」の萌芽が芽生えてきており一般にマインドフルビジネスとは関係がないと思われている領域でも、実は「マインドフル」になりつつあります。
そこで、現在のあらゆる産業の中にすでに「マインドフル」な状態を作り出すという目的のビジネスがすでに含まれていると考えてみました。
例えば、今流行の「IoT」産業の中にも、MUSEのように人間の体のバイタル情報をセンサーでキャッチし、それを自らにバイオフィードバックをかけ、自分自身の状態をモニタリングすることで、「マインドフルな状態」を自分で作り出すガジェットなどが登場しつつあるからです。
またAI(人工知能)の業界においても、仮の話ではありまするが、悩みを抱えている人の話をひたすら傾聴することで、人の心を慰める作用をもたらしたり、また禅問答のような対話をすることで、人に気づきを与え、人の心の成長をたすけるようなAIが登場すれば、それは十分にマインドフルビジネスのカテゴリーに入ると思われます。
つまり、それぞれの産業の中に「マインドフルな状態を目指す」製品やサービスなどが、すでにもう含まれており、それを切り出して合算すれば、大体の「マインドフル・ビジネス」世界市場規模になるのでは?と、ざっくりっと考えたわけです。
マインドフル・エコノミーにおける顧客像と価値観
マインドフル・エコノミーのなかで生み出されるビジネスの対象となる消費者の属性は、米国、ヨーロッパの一部、日本、など限られた先進国の中の富裕層になるであろうと想定しています。先進国で資本主義が十分に行き渡り、モノやサービスがすでに身の回りにお溢れているような国の中でも富裕層のカテゴリーにあたる人々であり、そのような富裕層においては、生活基盤は安定しており、さらに家や車など生活に必要な基盤はすでに持ち合わせていると考えています。
そのような、マインドフル・ビジネスが多く提供される市場である、マインドフル・エコノミーの中で、顧客が価値と感じる価値観を4つに分けて以下のように定義してみました。
1. Functionality (機能)
提供される製品やサービスの基本的な機能のことです。たとえば、洗濯機であれば最低限の洗濯ができることであり、冷蔵庫であれば冷蔵庫内にある食品が設定した温度で冷やされることです。例えば日本において、製品・サービスにおける「昭和」の価値観では、これまでの商品において基本的な機能自体が製品やサービスに不足していたことから、重要視されていました。しかし、昭和から平成の時代の流れと共に、その機能の価値は相対的に半分となり、変化していきました。昭和から平成にと機能とそれ以外の価値を比較すると、感覚的にはちょうど半分・半分という段階にあると定義しています。
2. Design (デザイン)
デザインは一般消費者が商品、サービスを選ぶ際の最も重要な要素の一つであり続けました、元号で言えば昭和の末期になり、ときには機能性を凌駕するほど重要な商品・サービスの重要な価値となりました。ちょうど平成が終わる頃には、「デザイン」は機能性を覗いては最も大きな商品に対する大きな付加価値となりました。しかし、一方でデザイン優先の価値観は、商品のライフサイクルをはやめ、時にはすべての商品・サービスがトレンドに応じて変化するために、外観上非常に似通ったものにさせてしまうなどの弊害もうみだしたのです。
3. Experience (体験)
マインドフルエコノミーの中で対象となる顧客にとっての製品価値にふくまれる「体験」の価値は非常に大きなものになっていると考えています。他の先進国と同様に、日本においての体験価値は平成に入り大きくなってきており、平成の最後にはこの体験価値が一般消費者向けには大きな割合を占めるようになってきています。
4. Social / Loaclity (社会性)
マインドフル・エコノミーの対象とする顧客は、これまでの資本経済の中で多くの製品やサービスを体験した、いわば十分に資本守護の恩恵をうけ、さまざまな製品・サービスでトレーニングされた顧客です。そのようなトレーニングされた顧客にとって、これまでの資本主義の先にあるもの、それが商業活動として提供されるのがマインドフル・ビジネスであり、そのような顧客は自分が購入する製品やサービスが地域社会にどのような貢献があり、またどの環境に対してどの程度の貢献ができるのかということが重要になってきます。
5. Self-transformation (自己変容)
この概念は、これまでの1で述べたExperience (経験)と混同されやすいのですが、マーケティングの世界で言われる「Experience (体験)」とは異なった概念です。マーケティングのなかで定義されるExperience(体験)は、時間が経つに連れて、体験からくる記憶や、意識の変容などは失われていきますが、Self-transformationは「不可逆なも」のであると定義しています。つまり、一度Self-transformation experience(自己変容経験)を体験したユーザーは、個人の中の価値観が大きく変化し、その意識の状態は体験前とことなり不可逆的に変容します。マインドフル・エコノミーの中で提供される製品やサービスの最終的な目的が、Self-transformation(自己変容)を目的としている商品であると想定しています。